手足口病は、乳幼児を中心に毎年流行を繰り返す感染症であり、その多様な原因ウイルスと、一度の感染では全ての型に免疫がつかないという特性から、ワクチン開発への期待が高まっています。現在、手足口病に対するワクチン開発は進行中であり、特に重症化リスクの高いエンテロウイルス71型(EV71)を標的としたワクチンの研究が先行しています。EV71は、手足口病の一般的な症状だけでなく、稀に脳炎や髄膜炎といった神経系の重篤な合併症を引き起こすことが知られています。これらの合併症は、特にアジア太平洋地域で大きな公衆衛生上の問題となっており、EV71に対するワクチンの必要性が強く認識されています。実際に、中国ではEV71ワクチンが開発され、すでに実用化されています。このワクチンは、EV71に対する免疫を付与することで、EV71による手足口病の発症、特に重症化を防ぐことを目的としています。中国での臨床試験では、高い有効性が報告されており、EV71による重症手足口病の発症率を大幅に低下させる効果が期待されています。ワクチンによって免疫がつくことで、集団免疫の効果も期待できます。これは、ワクチン接種率が高まることで、ウイルスが広がる機会が減少し、接種を受けていない人も間接的に守られるというものです。EV71ワクチンが普及すれば、地域全体のEV71感染による重症化リスクが低減される可能性があります。しかし、手足口病の原因ウイルスはEV71だけではありません。コクサッキーウイルスA群(CAV16、CAV6など)も主要な原因ウイルスであり、これらのウイルスに対するワクチン開発も並行して進められています。手足口病は、複数のウイルス型によって引き起こされるため、理想的には、これらの主要なウイルス型全てに対応できる「多価ワクチン」の開発が望まれています。多価ワクチンが実現すれば、一度の接種で複数のウイルス型に対する免疫を獲得し、手足口病の再感染リスクを大幅に低減できる可能性があります。ワクチン開発には、安全性の確保と有効性の確認という重要なステップがあり、臨床試験を経て承認されるまでには長い期間を要します。
手足口病の免疫とワクチン開発の現在